SDGs活動を実現するクラウドファンディングプラットフォーム SustainaSeed
TIPSが『SDGs・ダイバーシティ』をテーマに自ら取材し、発信するWEBメディア RECT。今回は、サステイナビリティ(持続可能性)に取り組むプロジェクトと、その活動に共感し、応援するサポーターをつなぐクラウドファンディングプラットフォーム SustainaSeedを立ち上げたサスティナシード株式会社 代表取締役CEO 中畑裕子氏にお話をうかがいました。
中畑裕子氏
JASDAQ上場企業の人材派遣・人材サービス業界にて法人営業を経て、子会社の代表取締役社長に就任し、約3年で大幅な経常利益向上を実現。その後、ファッション業界に特化した人材紹介会社を自ら立ち上げ、代表取締役社長として約5年間務めた後に事業売却し、香港に移住。RFIDタグ製造を行うアパレル副資材商社に7年在籍し、主に東南アジアでの新規法人立ち上げ・管理を複数経験した後、CAOとして国内外グループ法人11社の管理部門統括に従事。直近では、JASDAQ上場企業および東証一部上場企業の社外取締役を歴任。英国MBA取得。卒業論文テーマ「ファストファッションにおけるCSR」ハーバードビジネススクールオンライン・サスティナブルビジネス戦略コース修了。
■ クラウドファンディングとは
クラウドファンディング(Crowdfunding)は、共通の対象に関心をもつ人々(crowd)から資金調達(funding)を行うことを意味する造語で、商品やサービスを開発したり、社会課題に取り組んだりするために、インターネット上でプロジェクトを公開し、応援したいと思ってくれるサポーター(支援者)から資金を集める仕組みです。
インターネットの普及とともに、2000年代からアメリカで広がりはじめ、日本では2011年に初のクラウドファンディングサービスとしてREADYFOR(READYFOR株式会社)が誕生しました。同年にCAMPFIRE(株式会社CAMPFIRE)、その後はMakuake(株式会社マクアケ)やGoodMorning(株式会社CAMPFIRE)など、クラウドファンディングサービスが続々と誕生しています。2013年には、ふるさと納税サイト ふるさとチョイスを運営する株式会社トラストバンクが、ふるさと納税制度を利用した自治体がオーナーとなるクラウドファンディング『GCF:Government Cloud Funding(ガバメントクラウドファンディング)』を提唱し、ふるさと納税を活用して自治体の取り組みを応援するふるさと納税型クラウドファンディングも広がっています。2020年度のクラウドファンディングの国内市場規模は、前年度から17.6%増加して1841億7700万円(出所:矢野経済研究所「国内クラウドファンディング市場の調査を実施(2021年)」)になっています。
― クラウドファンディングの種類
クラウドファンディングにはいくつか種類(上図参照)があり、SustainaSeedで扱うのは購入型と寄付型です。さらに、購入型のなかには「All or Nothing型:プロジェクトの期間内に目標金額を達成した場合のみプロジェクトが成立する」と「All In型:1人でもサポーターがいれば、目標金額に達していなくてもプロジェクトが成立する」という2種類があり、SustainaSeedではどちらかを選択することができます。
■ サステイナビリティに特化した SustainaSeed
SustainaSeedは、2022年1月にベータ版がリリース予定のクラウドファンディングプラットフォームで、最大の特徴は『サステイナビリティ=持続可能性に関連したクラウドファンディングプロジェクトのみを取り扱う』ことです。SDGs・ESGなど、“サステイナブルに取り組むプロジェクト”と、“活動に共感し、応援するサポーター”をつなぐことで、持続可能な社会実現を目指します。SustainaSeedでは、購入型と寄付型のクラウドファンディングプロジェクトを扱い、プロジェクトオーナーがリリースしたいサステイナブルに貢献する製品やサービスとリターンを紹介し、サポーターから社会にとって良いものを生み出すための資金を募ります。サステイナビリティに特化したクラウドファンディングプラットフォームとすることで、SustainaSeedにプロジェクトを掲載するだけで、自ずとそれが社会にとって良いものであると伝えることができます。また、SustainaSeedでは、クラウドファンディングプロジェクトの掲載によってサステイナビリティに関心のある人が集まる性質を活かして、コミュニティの形成や、サステイナビリティに対する行動を促す仕組みづくりなども検討しているそうです。
■ SustainaSeedを使う
― サポーターとして
サポーターとしてSustainaSeedに掲載されるサステイナブルな製品やサービスの開発を目指す様々なクラウドファンディングプロジェクトを支援すると、プロジェクトの成立によって社会にサステイナブルな製品やサービスが生み出され、持続可能な社会の実現に参加することができます。購入型クラウドファンディングの場合は、支援したプロジェクトが成立すると、リターンとしてプロジェクトを通じて開発された製品やサービスなどがサポーターに提供されます。
― プロジェクトオーナーとして
プロジェクトオーナーとして SustainaSeedにサステイナブルに関連したプロジェクトを掲載すると、サステイナビリティに関心のあるサポーターの支援を得て、プロジェクトのローンチや拡大を目指すことができます。SustainaSeedへの参加は、プロジェクトがサステイナビリティに貢献していることが条件で、現在掲載プロジェクトを募集しています(掲載には、審査や情報登録が必要です)。通常手数料は20%で、プロジェクトオーナーが学生の場合は手数料10%(決済手数料5% + 利用手数料5%)で利用が可能です。
■ インタビュー SustainaSeedファウンダー 中畑裕子氏
20年来の友人で、マルチリンガルである社会起業家の岡田耕治氏とともにサステイナビリティに特化したクラウドファンディングプラットフォームSustainaSeedを立ち上げた 代表取締役CEO 中畑裕子氏に、TIPSメンバーの小山田・鈴木がお話をうかがいました。
― SustainaSeedを立ち上げた経緯
2016年に受講したMBAの授業にBusiness ethics and CSRというモジュールがあり、これにとても強い興味を覚えました。そして、卒業論文のテーマには「ファストファッションにおけるCSR」を選び、企業のあるべき姿について研究し、2019年に卒業しました。
ある日、1冊の本の挿絵に出会いました。18歳の医学生だったアメリカのアレックス・バナヤンという人物が、自分の人生に疑問をもち、ビル・ゲイツやウォーレン・バフェットといった成功者たちに直接インタビューを試みた体験談をまとめた『The Third Door(サードドア:精神的資産の増やし方)』という本に掲載された挿絵で、ハードル走のスタート地点に立つ2人の人物が描かれていました。1人は白人の男性、もう1人は有色人種の女性で、男性の前には普通のハードルが並びますが、女性には足かせが付けられ、目の前にはワニのいるいばらの道、というものです。このジェンダーギャップを示した絵に衝撃を覚え、女性のキャリアについてリサーチしてみることにしました。McKinsey & Company, Inc.と NPO Lean In(Facebook COO シェリル・サンドバーグ氏が設立)によりレポートで、女性の昇進の障害は、一定の職位以上への昇進を阻む “ガラスの天井” ではなく、ごく初期の昇進が困難で、そもそも1段目を登ることができない “壊れたハシゴ” であると示されていました。では日本はというと、最近は取り上げられる機会が増えましたが、2021年のジェンダーギャップ指数は156か国中120位、上場企業の取締役に占める女性の割合はG7で最低、G20 でもほぼ最下位です。こういった事実を知る中で、ロールモデルの少なさを知り、後の世代の為に何か出来ないかと考え、私自身が上場企業の役員を務めていることから、ボランティアで女性のキャリアをサポートするサークルをはじめました。はじめはアメリカ人コミュニティで開始し、のちに日本向けにも展開して1年以上経過しましたが、ボランティアベースでは広がりに限界があることを痛感し、より多くの人たちをサポートするビジネスの構想を立てるようになりました。
改めてハーバードビジネススクールオンラインで企業のサステイナブル戦略コースを受けて、ビジネスとしてどう実現できるかと考えました。ジェンダーギャップへの課題意識が入り口でしたが、CSRの研究や、上場企業の役員としてESG(Environment/環境・Social/社会・Governance/ガバナンス)の取り組みに携わっていること、SDGsがようやく日本でも取り上げられていることから、これらを包括した“サステイナビリティ”として社会課題全体に領域を広げることにしました。
はじめは、クラウドファンディングを使って自分で商品を作ろうとしました。しかし、SDGsをはじめ、サステイナブルに取り組んでいる人たちをサポートする仕組みを作ることで、持続可能な社会づくりをより広められるのではないかと考えるようになり、サステイナブルに特化したクラウドファンディングプラットフォームを立ち上げることを決意しました。事業内容の決定までは、ビジネススクールのクラスメイトや、ビジネスでキャリアを積んだ多くの友人たちとのディスカッションやフィードバックにじっくりと時間をかけました。そして、SustainaSeedのアイディアを岡田氏に話したところ、彼のミッションに合致するため、ぜひ一緒にやりたいという申し出があり、共同での会社設立に至りました。
― SustainaSeedの名前の由来
私にとって、会社を立ち上げるのは2社目になるのですが、1社目は社名を聞いても事業がわからない名前をつけていたので、次回は社名からイメージが浮かぶようなネーミングにしようと思っていました。当然、今回の事業では、私自身がこだわりたいところとして『Sustainable』という単語があります。それでは、『Seed』はというと、アメリカのクラウドファンディングプラットフォームの企業名を調べてみると、Seedを使っているところが非常に多かったのです。Seedには、種という意味だけでなく植えるという意味がありますし、Seedという言葉がクラウドファンディングをイメージさせることがわかったため、サステイナブルを植える SustainaSeedという名前をつけました。単語をつなげてそれぞれの頭文字を大文字で表記するのは、共同創業者の岡田氏が考えてくれたものです。海外の人には、SustainaSeedという社名がすごくわかりやすいねと評価していただけており、良いネーミングだと思っています。
― 取り組みのなかで感じる手応え
SustainaSeedの設立に動き出して、「目先のお金だけでなく、環境のことや未来の暮らし、後の世代のことを考えて、何が正しいのか、現在の暮らしを考え直す必要があるよね。」と行動している人がとても多くいらっしゃることがわかりました。自分や特定の人のメリットだけではない、地域や社会、地球全体を考えた課題感が共有できると、一緒にやりましょう!と業界や国の垣根を越えてスッと連携ができる。普通のビジネスではなかなかこうはいきません。この意識は世界共通であり、海外では課題意識が非常に高いことから、現在はSustainaSeedの協力会社は海外企業の方が多くなっています。サステイナビリティの分野では、特にヨーロッパの感度が高く、すでに多くの企業が積極的にサステイナブルな製品の開発などに取り組んでいます。世界の良い先例をみながら、日本でも“サステイナビリティってクール!”という認識を広めていきたいと思います。
― 取り組みのなかで感じる課題
サステイナビリティに特化したサービスを創ろうと取り組むなかで、他国と比べて日本でのサステイナビリティの広がり、つまり認知度や関心が低いと感じています。また、クラウドファンディングというモノやサービスを売る仕組みを展開することについていえば、(環境や人がどうであれ)売れればいい、安ければいい、面白ければいい、ということに対して「本当にそれでいいの?」と考えるきっかけを創り出していかなければならないというのが課題です。私たちはNPOではなく事業会社として考えるきっかけの提唱者になりたいと思っているので、自社単体ではなく、同じ思いを持っている人たちや組織と協力しながら、もっとサステイナビリティについて考えようということを広めていきたいと思います。
― SustainaSeedにかける思い
私は、サステイナビリティの実現に向けて、SustainaSeedをクラウドファンディングプラットフォームにとどまらず、ひとつのエコシステムにしていきたいと考えています。もちろん、かなり大きなチャレンジだと思いますが、例えば2022年4月の日本の株式市場再編によって誕生するプライム市場(グローバル投資家向けの市場)では、サステイナブルレポートの開示を必須として、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース:企業に対して気候変動関連のリスクについて、ガバナンスや戦略、リスク管理、目標などについて開示を求める)あるいは同等の国際機関に沿った基準を採用することが求められており、非財務情報が非常に重要視されています。こうした状況により、企業も変化せざるを得なくなっています。企業活動には、少し考慮したり、従来のやり方を少し変えたりすればサステイナブルにつながるのに、まだ認識されておらず、実行されていない部分がたくさんあると思っています。そういったところをみんなで一緒に変えていきましょうという、企業のサステイナブルへの変革を提唱する立ち位置を目指したい。そのはじめの一歩が、サステイナブルへの取り組みを支援するクラウドファンディングなのです。
― 学生・若い世代へのメッセージ
持続可能な社会について、SDGsがメディアに取り上げられる機会が増えている一方で、ひとつの流行りもののようになってしまうリスクがあります。SDGsで掲げられた17の目標には、日本ではあまり想像がつきにくい項目もあるかもしれませんが、決して他人事ではなく、自分事として未来を考えるプロセスが必要だと思っています。みなさんはデジタルネイティブ世代で、物事を俯瞰して見ることができ、多様性や未来をよくするための変化を受け入れる感度が非常に高いと思います。世代を超えて、私たちの想いに共感してくださるみなさんと一緒に活動ができれば嬉しく思います。今、みなさんと一緒に行動を起こし、より良い未来づくりに貢献して、みなさんが私の年齢になる頃や、お子さんを持つような年齢になったときに、「あのときにみんなで変革できたよね」と思えたら素晴らしいと思います。“サステイナブルを当たり前に。より良い社会を後の世代へ。”という想いに共感し、なにか一緒にできそうと思ってくださった方がいれば、ぜひお声掛けください。
(Writer:小山田萌佳、鈴木陽人、三浦央稀)
■ SustainaSeed ホームページ
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