『馬』×『地域資源』でサステイナブルな農場をつくる ジオファーム八幡平

 TIPSが『SDGs・ダイバーシティ』をテーマに自ら取材し、発信するWEBメディアRECT。今回は、引退した競走馬のセカンドキャリアや居場所づくりに取り組み、馬と地域資源を活かしたサステイナブルな農場を運営するジオファーム八幡平(はちまんたい)の代表 船橋慶延氏にお話をうかがいました。

船橋 慶延(ふなはし よしのぶ)氏

 企業組合 八幡平地熱活用プロジェクト代表理事。高校生ではじめた乗馬に夢中になり、シドニー五輪日本代表の広田龍馬に師事し障害飛越競技に力を入れる。馬運車運転のスキルアップを目的とした運送会社勤務、栃木県の(有)那須トレーニングファーム 牧場部門・場長、北海道の(有)加藤ステーブル 騎乗スタッフなどを経て2012年に八幡平市に移住。2013年に「プレミアム馬ふん堆肥」開発、2015年に企業組合 八幡平地熱活用プロジェクトを有志と共に立ち上げ、「ジオファーム八幡平」運営開始。 


■ ジオファーム八幡平とは?

 ジオファーム八幡平は、岩手県八幡平市にある農場です。ジオファーム八幡平には2つの特徴があります。ひとつ目は、引退した競走馬(サラブレッド)を受け入れ、居場所づくりに取り組んでいること。ふたつ目は、伝統的な方法でマッシュルームの栽培を行っていること。これらは、とても密接に関係しているそうですが、馬とマッシュルームがどのようにつながっているのでしょうか。 


■ 引退競走馬を受け入れ、マッシュルームをつくる理由

 船橋さんは競走馬育成の経験を活かし、ジオファーム八幡平で現在14頭の引退競走馬を受け入れ、飼育しています。ジオファーム八幡平が引退競走馬を受け入れるのには、ある理由があります。

 

― 競走馬のリアル

 競走馬の品種であるサラブレッドは、毎年約7,000頭が生まれ、調教されセリにかけられて、2歳半ほどでレースにデビューします。JRA(日本中央競馬会。全国10か所の競馬場で中央競馬を開催する)に登録される馬は毎年5,000頭ほど。馬の寿命は平均で25年前後、長ければ30年生きますが、競馬は厳しい世界であるため、良い成績を残せない馬は早ければ3歳でJRAでの出走(競馬のレースに出ること)がなくなり地方競馬への転籍や引退を余儀なくされ、競走馬として成功しても7~8歳頃までには引退を迎えます。 

 競走馬を引退しても、馬を飼育するには大きなコストがかかるため、そのコストを回収する必要があります。そのため、引退した馬は、セカンドキャリアとして繁殖馬・種馬や乗馬馬(じょうばうま)になりますが、そもそも引退馬の数に対して受け入れ環境が不足しているだけでなく、乗馬馬になっても、人に触られるのを嫌がったり、もともと早く走ることを目指して育てられたためにゆっくりと走れなかったりと、乗馬馬に適応できない馬もいます。3~7歳というまだ子どもや若い年齢うちに競走馬を引退したサラブレッドたちは、その多くが寿命を全うすることなく殺処分されているのが現状です。近年、アニマルウェルフェアへの関心の高まりとともに、競走馬の引退後ついても注目が高まっています。船橋さんは、馬が馬肉として食されることは否定しない一方で、馬たちに寄り添い、引退馬の居場所づくりに取り組んでいます。この『居場所』を持続可能なものにするのが、マッシュルームです。


― マッシュルーム栽培に取り組む理由

 ジオファーム八幡平では、2015年からマッシュルーム栽培を行っています。フランスで確立されたマッシュルームの伝統的な栽培方法は、馬小屋に敷き詰められた藁を利用するもので、『馬厩肥(ばきゅうひ)』と呼ばれる馬の堆肥が不可欠です。馬の堆肥がマッシュルームの栽培に利用されることで、馬がジオファーム八幡平で暮らすなかで付加価値を生み出すことができ、マッシュルームの売上が馬の飼育コストの確保につながります。ジオファーム八幡平がマッシュルームを栽培するのは、馬たちが自分で価値を生み出し、飼育にかかるコストを賄い、持続可能な飼育ができる仕組みをつくりたいという思いがあるのです。


■ 地域資源を生かしたサーキュラーエコノミー

 ジオファーム八幡平では、地域資源を活かしたサーキュラーエコノミー:経済循環モデルの構築に取り組んでいます。サーキュラーエコノミーは、資源を採掘し、モノを大量に生産して、大量に廃棄するという一方通行の経済システムではなく、資源を長く利用するとともに、これまで廃棄されていたものを資源として有効利用することで、廃棄物や汚染を発生させずに価値のある資源を循環させる経済システムです。

― 馬を中心としたサーキュラーエコノミー

 まず、馬たちが生活する馬房の環境を整えるため、農家さんから「藁」を確保し、敷き藁にします。馬たちが敷き藁の上で生活すると、馬糞と藁が「馬厩肥」になります。それらを馬房掃除の際に回収し、培地製造プラントに送ってマッシュルームを栽培するための「菌床」をつくります。菌床でマッシュルームを栽培し、収穫が終わると、菌床は発酵させられ「堆肥」に変わります。その堆肥が肥料として農家さんに届けられ、その肥料で育った「稲や麦」の茎などが、再び「藁」として馬房の敷き藁に利用されます。このように、馬を中心としたサーキュラーエコノミー:循環が形成されています。馬の堆肥は、野菜を健康に大きく、おいしく育てることができると農家さんから評判で、馬たちはジオファーム八幡平で、マッシュルームの菌床と、作物の肥料という価値を生み出す役目を果たしています。   


■ ジオファーム八幡平でつくる 八幡平マッシュルーム® 

 ジオファーム八幡平のマッシュルームは、岩手県を中心に道の駅や食料品店、スーパーのほか、ジオファーファーム八幡平のホームページからも購入することができます。また、その美味しさから、全国で八幡平マッシュルームを使う飲食店が増えており、都内のお店でも食べることが可能。こちらも、ジオファーム八幡平のホームページで確認できます。ジオファーム八幡平でつくられるマッシュルームは、2020年に「八幡平マッシュルーム®」として地域団体商標に正式に登録されました。地域名と商品名を組み合わせたブランドとして登録されるには、地域に根ざし、一定の知名度があることが求められており、もともと八幡平では生産されていなかった比較的新しい産品であるジオファーム八幡平のマッシュルームの評価の高さがわかります。 

― 馬と地域資源を活かすマッシュルーム栽培

 ジオファーム八幡平では、地域が持つ環境と、様々な資源と、馬を活かした栽培を行っています。岩手の涼しく乾燥した気候を活かすことで身が引きしまり、岩手山や八幡平の伏流水がベースの湧水「金沢清水」水系の水で栽培することで後味が良く香りが豊かに仕上がります。また、馬厩肥を用いた菌床づくりや、隣接する温泉旅館の温泉熱を利用した堆肥づくりの環境管理などによって、資源の有効利用と環境負荷の低減にも取り組んでいます。


― 新たな試み『ウマッシュコイン』

 ジオファーム八幡平では、2021年から、ブロックチェーン技術を活用した「ウマッシュコイン」の実証実験を開始しました。これは、ジオファーム八幡平で生産・販売している『馬由来』のマッシュルームを購入すると、ウマッシュコインという電子コインが溜まり、協賛企業のクーポンやお得な割引サービスに交換できるというもので、馬たちの持続可能な飼育の仕組みづくりのために、馬由来の資源を記録・見える化し、経済のつながりを拡大する新たな試みです。 


■ 最後に ―ジオファーム八幡平にかける想い

 船橋さんは、ジオファーム八幡平のキーワードとして「循環」という言葉を強調します。「馬の飼育にはコストがかかる。引退した馬を受け入れ、面倒を見続けていきたいが、気持ちだけではどうしても限界が来てしまう。馬たちの世話を続けるためには、社会の消費活動のなかでニーズをつかんで、経済と資源を循環させる持続可能な仕組みをつくらなくてはならない」。ジオファーム八幡平のホームページには、『Happy People make Happy Horse! Happy Horse makes Happy people!!』という言葉が書かれています。ジオファーム八幡平に関わる馬も人もHappyになれるように、「馬」と「食」を中心に経済や資源が循環する持続可能な仕組みづくりに挑戦しています。


■ ジオファーム八幡平のアクセス

 ジオファーム八幡平は、雄大な岩手山の麓に広がる農場で、東北自動車道の岩手山サービスエリアから歩いてすぐのところにあります。現在はコロナウィルスの関係により乗馬体験などは中止していますが、コロナ禍が落ち着いたらぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。 

東北自動車道

・西根IC、松尾八幡平ICからともに車で10分
・岩手山SAから徒歩6分※

南寄木集落センター バス停から徒歩20分 

八幡平市コミュニティバス 
・大花森路線 02 八幡平市役所~東八幡平病院線線(1日2便)
・前森路線 03 前森方面左回り、寄木方面右回り(各1日1便)
・前森路線 04 おらほの温泉発立石行(1日1便)

南寄木 バス停から徒歩27分

岩手県北バス
・盛岡~八幡平(八幡平方面平日13本/休日11本、盛岡方面14本)
八幡平市コミュニティバス
・大花森路線 02 八幡平市役所~東八幡平病院線線(1日2便)
・前森路線 03 前森方面左回り、寄木方面右回り(各1日1便) 


■ ジオファーム八幡平 ホームページ

(Writer:北島有依、山崎翼、三浦央稀)



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