REDA特集② ファッションを変えた 化学繊維と大量生産

 TIPSが『SDGs・ダイバーシティ』をテーマに自ら取材し、発信するWEBメディア RECT。今回は、にわかに注目が高まる『SDGsとファッション』をテーマに、ファッション業界のSDGsの最先端を走るREDAを取り上げます。私たちの生活の一部でもある衣服を作り出すファッション業界が「地球のために、もっとサステイナブルに変わらなければならない」と声を上げるREDA JAPAN代表取締役 上野伸悟氏に、ファッション業界が抱えるSDGsの課題、そして、REDAの取り組みや思いについて、お話をうかがいました。

上野伸悟氏

REDA JAPAN株式会社 代表取締役。イタリアでのファッション修行や、REDA JAPAN、ファッション業界他社を経て、2019年より現職。


 ファストファッションという言葉が一般的になり、私たちは数百円からととても手ごろな値段で服を買えるようになりました。ここまで服の値段が下がった最大の要因は、安価な素材 ポリエステルを生地に用いるようになったことと、大量生産がされるようになったことです。ファッションが手ごろなものになった一方で、それを維持するためにかかる環境面や経済面の課題はどんどん深刻化し、時代の変化とともに無視できないものになっています。


■ ファッションが抱えるSDGsの課題① プラスチック汚染

― 衣服の生地に使われるポリエステル

 ポリエステルは、石油から化学的に合成された原料のみで作られる合成繊維で、一般的にはペットボトルと同じPET(ポリエチレンテレフタレート)で作られます。現在、世界で最も生産量の多い化学繊維は、このポリエステルです。非常に安価で、世の中に流通する衣服の多くに用いられているポリエステルを代表とする化学繊維ですが、衣服の着心地の面でも、環境負荷の面でも、大きな欠点を持っています。


― 化学繊維の着心地

 ポリエステルのような化学繊維は、石油を原料に、ところてんのように型から細い繊維を押し出して作られます。ペットボトルが水を通さないように、化学繊維には吸水性がなく、汗や水分は繊維の隙間に残って乾燥してしまうため、バクテリアが発生して臭いが発生したり、肌が敏感な人は皮膚のかゆみや炎症につながったりします。化学繊維の服に慣れてしまった今日、多くの人は汗をかいた後の衣服の酸っぱい臭いは体臭や汗のせいだと思っていますが、実は化学繊維が原因です。化学繊維でつくられた衣服で、『吸水速乾』を謳う商品もたくさん見られますが、そういった商品は、化学繊維の断面に切り込みを入れることで、繊維についた汗を下に流していて、繊維が汗を吸収してくれるわけでも、吸収した汗を乾かしているわけでもありません。体を動かした後、胸元や背中の汗は乾いているけど、腰回りはびしょびしょになっている、という経験をしたことはありませんか。それも、化学繊維が原因です。


― 日々の洗濯が、深刻な環境汚染の原因に

 TIPSでもたびたび取り上げている、プラスチックごみによる海洋汚染問題。最近では、日本でも海岸に大量のプラスチックごみが漂着している光景を見ることは決して珍しくなくなりました。ビニール袋にからまってしまった鳥や、プラスチックを飲み込む亀の写真を見たことがある人もいるかもしれません。海に流れ出したプラスチックごみは、その多くが波などにさらされて細かな『マイクロプラスチック』になり、魚が飲み込んだり塩に混ざったりして、すでに私たちの食卓に並んでいます。現在のペースで海に流れ出すプラスチックごみが増え続けると、2050年には、海を漂うプラスチックごみの総量が、海を泳ぐ魚の総量を超えるといわれています。


 こうした『海洋マイクロプラスチック』問題は、海岸に漂着しているゴミのイメージから、主にペットボトルや洗剤の容器、食品の包装などが原因というイメージを持っている人や、日本ほどゴミの回収・処分の仕組みが整っていない国から流れ出している、といった、少し他人事のような感覚を持っている人も少なくないと思います。しかし、国際自然保護連盟の調査によると、海を漂うマイクロプラスチックの35%は、化学繊維のマイクロファイバーが原因だということが分かっています。化学繊維の服を日々洗濯機で洗うたびに、1回の洗濯で70万から120万のマイクロファイバー=衣服から出る細かな繊維が、各家庭の排水から下水道や河川を通り、海へ流出しているのです。日本でも多くの人が化学繊維でつくられた服を着ており、海洋マイクロプラスチック汚染は、決して他人事ではありません。また、最近では海岸に漂着したごみを拾い集める取り組みが広がっていますが、それ自体は素晴らしい活動でも、ごみが流れ出す “もと” を止めなければ、海の汚染は解決できないのです。



■ ファッションが抱えるSDGsの課題② 衣服の生産に関わる人々の労働問題

 とても安い値段で服を買うことができるようになったもうひとつの理由に、大量生産があります。しかし、衣服の大量生産を支える仕組みにも、大きな課題があります。昨年、オーストラリアのシンクタンクが、中国国内の工場でウイグル族が強制労働をさせられているとする報告書を発表し、日本企業14社が関与していると指摘されました。コットンの原料であり、中国の新疆ウイグル地区で生産される“新疆綿(しんきょうめん)”は、中国で生産される綿花の90%以上を占め、日本の衣料品は約7割が中国で生産されているため、多くのアパレル企業で新疆綿が使われているとされています。事実、シンクタンクが発表した取引先のリストには、日本の大手衣料品チェーンのトップ2社や、大手日用雑貨チェーンの名前も含まれていました。また、衣服を製造するために多くの人手が必要な縫製工場は、賃金が安い途上国に置かれています。最低賃金を保証する制度が先進国ほど整っていないなかで、男性よりもさらに賃金が低い女性が多く働いています。労働環境も決して良いものとはいえず、2013年には、安い人件費を目当てに世界中から多くの縫製工場が集まるバングラデシュで、縫製工場が入居するビルが大型の発電機と多数のミシンによる振動が原因で崩壊し、従業員を含む1,100人以上が死亡、2,500人以上が負傷するラナプラザの悲劇が発生しています。上野さんのお話では、衣服を作るには、(例えばTシャツの場合)材料によりますが一般的な綿のカットソーが700円~、縫うのに国内縫製で1,000円~1,500円、これらを含め原価だけで2,000円前後はかかるといい、国内外の企業を問わず、数百円から衣服が買える状態は、本来あり得ません。あり得ない価格が実現されている背景には、衣服の原材料を作っている人や、衣服を縫製している人が、十分な対価を得られていなかったり、過酷な労働環境に置かれたりしている実態があります。



■ 第3回に続く

 次回は、REDAのサステイナビリティへの取り組みと、これらの問題に私たちは何ができるのかをまとめます。

※取材は、REDA JAPAN株式会社オフィスにて、感染症対策を徹底して行いました。

(Writer:髙橋由奈、𣜜原京、三浦央稀)


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