REDA特集③ REDAの取り組みと私たちにできること
TIPSが『SDGs・ダイバーシティ』をテーマに自ら取材し、発信するWEBメディア RECT。今回は、にわかに注目が高まる『SDGsとファッション』をテーマに、ファッション業界のSDGsの最先端を走るREDAを取り上げます。私たちの生活の一部でもある衣服を作り出すファッション業界が「地球のために、もっとサステイナブルに変わらなければならない」と声を上げるREDA JAPAN代表取締役 上野伸悟氏に、ファッション業界が抱えるSDGsの課題、そして、REDAの取り組みや思いについて、お話をうかがいました。
上野伸悟氏
REDA JAPAN株式会社 代表取締役。イタリアでのファッション修行や、REDA JAPAN、ファッション業界他社を経て、2019年より現職。
第1回では、REDAがおよそ20年前から当たり前に行ってきた、同社の “環境に負荷をかけない確立された生産工程” “動物愛護” “社会貢献” が近年高い注目を集めていること、第2回では、ファッションが「環境問題」と「人権問題」の2つの側面で課題を抱えることを取り上げました。最終回は、REDAのサステイナビリティへの取り組みと、ファッション業界をどのように変えていこうとしているのか、そして、私たちにはなにができるのかをまとめます。
■ REDAのサステイナビリティへの取り組み
― 水資源を考えた製造
REDAでは、品質の高いウールを効率的に生産するために、1990年代から2000年にかけて工場のオートメーション化を進め、その頃から、現在では当たり前になったソーラーパネルを工場に導入し、排水の濾過施設も整備しました。REDAは、オーストラリア自社資本の原毛買い付け会社やニュージーランドの自社牧場で飼育したトレーサビリティの確保された羊の毛を、イタリアで綿にし、梳(す)いて撚(よ)り、織物にしていく過程で、ビエラを流れるアルプスの雪解け水を使います。ウールに限らず、衣服を作るには大量の水が必要で、環境省の脱炭素ポータルによると、服を1着作るためには2,300リットルもの水が必要とされており、ファッション業界全体が大量の水を利用しています。それでも、REDAがこの地の水にこだわるのは、硬水が当たり前のイタリアではめずらしい、ミネラルなどの不純物が少ないビエラの軟水がウールの品質にも大きく貢献しているからです。同じくウールを生産する他の国々での水では、たとえ技術が追い付いても、ビエラで作られるウールの品質を超えることはできないといいます。そんな、イタリア・ビエラの水に支えられているREDAは、工場で使った水をそのまま排出せず、7割を再利用し、残りは飲めるくらいまで濾過して川に戻しています。
― 動物と地球環境にやさしい素材 ウールを使う
ウールは羊の毛から作られる素材ですが、きっと多くの方がテレビなどで見たことがある通り、羊を殺すことなく、繰り返し手に入れることが可能です。これは、石油から生成される再生不可能な合成繊維や、動物を殺して手に入るレザーなどと異なる点です。REDAでは、羊の毛から生地を製造する過程で生じるワタの残りはダウンのパックにしてエシカルダウンとして提供し、それでも残った羊の毛は大手化粧品原料メーカーに売却され、ウールに含まれる成分から生成される「ラノリン」という蝋になり、スキンケアクリームなど化粧品の原料に利用されています。無駄を出さないことを経営理念に掲げるREDAの、ウールの利用に対する強いこだわりが感じられます。また、ビーガンの流行とともに、家畜動物を飼育することによって発生するメタンガスや二酸化炭素にも注目が高まっています。羊は反芻をする動物のため、羊が生きていればもちろん二酸化炭素やメタンガスが発生しますが、上野さんはウールのメリットを4つ挙げています。
① 羊の毛は二酸化炭素や有害物質を吸収・浄化する
ウールの繊維は、半永久的に二酸化炭素や有害物質を吸収・浄化する作用をもち、また、抗菌機能や消臭機能もあります。これは、羊毛がもともと羊の体を守るためのものだからで、菌が侵入してくるとそれを無害にする免疫機能を持っており、新築の家や家具から発生するホルムアルデヒドを吸収・無害化することから、建築材料にも使われるほどです。
② ウールの服は土に還る
ウールをはじめとする天然素材でできた服は、土に還ります。これは、天然素材でできた服の繊維が海に流れ出したり、廃棄したりしても、自然環境を破壊しないことを意味しています。合成繊維の服は、海に繊維が流れると分解されないマイクロプラスチックになるだけでなく、廃棄をしても自然に還らないため、焼却処分したり、土壌を汚染したりします。
③ 汚れが付きにくい
ウールの繊維は、汚れがつきにくいという特徴もあります。これは、ウールの繊維の表面が、人間の髪の毛と同じキューティクルで覆われていて撥水性をもっていることと、繊維が水分を含んでいるために静電気が起こりにくく、汚れやホコリが付きにくいからです。服に汚れが付きにくく、先述の通り臭いも発生しにくければ、洗濯を減らすことができ、水や電気を使う頻度を減らして、環境負荷を軽減できます。実は、毎日洗濯をしたり、強い抗菌力や消臭力をもつ洗剤が好まれたりするようになったのは、合成繊維の服が増え、菌が繁殖しやすく臭くなりやすい服ばかりになった結果です。例えば、本来ウールでできたスーツは汚れにくいいために頻繁に洗う必要がないものです。一方で、ウォッシャブルスーツ(洗えるスーツ)を謳う製品が登場していますが、これは商品としてスーツが洗えるようになったメリットをアピールしていますが、実際には毎日洗わなければならない素材を使っているだけなのです。
④ 長持ちし、長く着られる
ウールでできた服は長く着られるため、服を買い替える数を減らすことができます。そうすると、1着の服にかけられる単価は高くなり、製造される服の数は減らすことができます。単価が上がり、製造される服が減れば、低賃金で重労働を強いられる人はいなくなり、製造のために使われる水や、排出される温室効果ガスも減らすことができます。もちろん、石油由来の素材も使う必要もなくなります。
■ ファッション業界はどう変わるべきか
― 本質的な変化を。もっとウールの利用を広げたい
ファッション業界でも、SDGsや環境配慮を掲げて、ハンガーやタグ、包装などにプラスチックを利用するのをやめ、紙などに切り替える動きが進んでいます。しかし、肝心の衣服の素材に化学繊維を利用することをやめようという動きは全く見られず、石油由来の素材に依存している状況は変化するどころかますます加速しています。環境省も「ファッションと環境」タスクフォースを立ち上げ、サステイナブルファッションの推進に動き出していますが、肝心の素材が抱える問題には一切触れていません。その一方で、合成繊維の環境負荷軽減を目指し、何百億円ものコストを投じて、植物由来の繊維や、クモの糸を人工的に合成する新繊維が開発されています。しかし、従来存在しなかったものを開発し、製品化するためには、開発コストだけでなく、設備投資や流通経路の確立が必要で、さらに多くのコストと環境負荷がかかります。ウールという既存の素材を使えば、化学繊維によって生じる環境問題を解決でき、ゼロからの設備投資も必要ありません。何百億円もの費用があれば、海を漂うごみの回収や、新たに発生するマイクロプラスチックを防止する取り組みも可能なはずです。
■私たちにできること
― マイクロプラスチックをキャッチできる洗濯ネットを使う
すでに持っている合成繊維の服を捨てて、すべて買い替えるというのは現実的ではありません。ですが、洗濯をするたびに流れ出すマイクロプラスチックをキャッチする洗濯ネットが販売されています。まずは今持っている服を選択する際に、服からはがれたプラスチック繊維をキャッチできる洗濯ネットを使うことで、プラスチック繊維の流出を防ぐことができます。
― 合成繊維の服を買うのをやめる
今後、衣服を買うときに、素材を気にすることも、私たちにできることのひとつです。合成繊維の服を新しく買うことは、洗濯によるマイクロプラスチックの発生だけでなく、合成繊維の衣服の流通・販売の増加につながってしまいます。嫌なにおいがしない、洗濯の回数を減らせる、長持ちするなどのメリットを踏まえて、合成繊維の衣服から自然由来の素材の衣服に少しずつ切り替えていくことを考えてみませんか。
― 古着を選ぶ
衣服は、最初の数回の洗濯で最も多くのプラスチック繊維が発生します。古着は、すでに何度も洗濯されて繊維の状態が落ち着いているため、新品の衣服と比べると洗濯をしてもプラスチックの繊維が発生しにくいといわれています。また、古着を選ぶ人が増えれば新しい衣服の生産を減らすことができ、製造・輸送過程で生じる環境負荷を減らすことにつながります。古着ファッションがおしゃれとして人気が高まって久しいですが、実は環境にも優しいファッションなのです。
■最後に ― ファッションの選び方に変化を
みなさんには、ぜひこれから、ファッションを見た目だけではなく、中身で選んでほしいと思います。これは恋愛と同じです。どんなに見た目が素敵でも、ポリエステルでできている服は中身がスカスカです。世界では、素材を意識して衣服を選ぶ意識が急速に広まっています。日本はまだまだ、流行の入れ替わりも激しく、安くないと衣服が売れないのが現状です。これから私たちファッション業界も、中身のあるファッションを広げていきたい。生地の見た目と触り心地を購入基準にしている人は少なくないと思いますが、例えばREDAのマークはイコール環境に配慮されたいい素材、という目印になるので、ぜひひとつの購入基準にしてもらえたらうれしいです。
■ REDA特集を読む
全3回にわたって、REDAの概要やサステイナビリティへの取り組み、ファッションが抱えるSDGsの課題、私たちにできることをまとめています。
※取材は、REDA JAPAN株式会社オフィスにて、感染症対策を徹底して行いました。
(Writer:髙橋由奈、𣜜原京、三浦央稀)
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